◇ 古本市
夜どおし、古本市の準備をして、早朝から眠ったような気がするが、記憶がはっきりしない。一回、目覚めて、ラジオをつけたのは覚えているが、7時半頃には起きあがった。キャリーカートを用意し、古本を詰めたクリアケースを括りつけて固定するのだが、なにしろひさしぶりだから、いつもどうやっていたかわからなくなってしまう。9時には出発。なんとか間に合う時間には出られた。暑くなりそうで、着ていこうとしていたパーカーはカバンに入れ、家からTシャツで出る。この時間はまだ、電車はさほど混雑はしていないようで、横浜駅の乗り換えもスムーズにできた。しかし、カートを引きずっていると、なかなかどこの席でも座れるというわけにはいかず、ずっと座らずにいたら、呼吸がやや苦しくなってくる。
東横線で渋谷に出て、半蔵門線に乗り換え、清澄白河まで。2年5ヶ月ぶりの古本市は「のらくろード古本市」から始まることになった。11時前ぎりぎりにのらくろードに到着すると、例のごとく、商店街は歩行者天国になっていて、露店や催しもののテントが並んでいる。古本市はどこでやってるかなと探しながら進んでいくと、ほんの木さんのお店の前の道路に、ほかの出店者さんたちがすでに本を並べている。あれっと思ったけど、そこでいきなり出会ったのが青山通信さんだ。小田原に住んでるのに、こんなところまでわざわざいらしている。まず、森下さんにあいさつしにお店を覗き、それから、自分も本を並べ始めようとしていると、あれっと思うひとがもうひとりいて、なぜか南陀楼さんのすがたがあった。なんでこんな時間からここにいるんだろうかと思うが、無視するわけにもいかないと思い、「おはようございます」とあいさつをして、本を並べ始めていると、気配がするので後ろをちらっとふり向いたら、南陀楼さんが突っ立って見ていた。うわっと思い、いやそうな顔をしてしまったが、隠すように並べていると、ちっちゃい声で「いいじゃん」と言うのが聞こえ、気がつけば、南陀楼さんはどこかに消えてしまった。
今回、ひさしぶりの古本市なので、看板を新たに作りなおそうかとも思っていたのだが、まるで余裕がなくなり、あきらめて古いものをもっていこうとしたら、それが見つからないので困ってしまった。古本市の道具一式、一緒にまとめてあると思っていたのに、まさかないとは思わなかった。以前にどうしたかの記憶がまったくない。しかたがないから、今回は看板なし。ここはもともと、屋号がなければいけないような決まりもないからいいのだけど。そういえば、お会いするかなと思っていた常連出店者のかたは意外といらっしゃらなかった。この古本市の公式ツイートによると、ほかの出店者さんは、レインボーブックス、一夜文庫、bookworms、むゆう舎、ヨリミチブックス、tsugubooks というみなさんで、全員いらしたのかもわからないのだが、レインボーさんがいたから助かった。ほかは知らないかたばかりかと思っていたが、一夜文庫さんは不忍でたけし特集をやったときにお客さんとしてお会いしているようだ。お客さんでは、Kamebooks さん夫妻も早い時間からいらしていた。ほかに知り合いでは、書肆ヘルニアさんがきてくれた。売りものの古本をすぐ目の前で見ていたのだが、帽子とマスクをしていて、話しかけられるまで誰だかまったく気がつかなかった。
今回は、同時に大道芸もやっているのが楽しく、ときどき、売り場を離れて見物に行った。森下さんによると、大道芸の開催はここでは初めての試みだそうだ。コロナ禍では大道芸の催しもずいぶん中止になってしまい、まるで観る機会がなかった。おろしぽんづという芸人はカラーコーンを使ったジャグリング、ハードパンチャーしんのすけはわりと定番のジャグリングをやる。KOMATAN という芸人はコマを使った曲芸を見せるのだが、江戸曲独楽ではないスタイルのコマの曲芸を観るのは初めてだ。ほかには、DAN というアコーディオン奏者、それから、AYUMI というスティルト(足長)の女性は歩行者天国を歩きまわり、古本を売っているこちらのほうにもやってくる。子どもたちが面白がって逃げまわっているのがにぎやかだった。
のらくろードといえば無料配布なのだが、今回は意外とゆったりしていて、もらえるものはぜんぶもらおうというような張りきっている感じのひとは見かけなかった。ほんの木さんでは文庫本の配布があり、われわれも並び、一冊ずつもらった。ほかのお店からは、おせんべいやお茶をいただき、お菓子をくれるひともいて、しょっちゅうなにかを食べていた。ちょっと暑くなる時間もあり、ほんの木さんからアイスキャンディーもいただいた。遅い時間になると、だいぶのんびりしてくる。われわれが古本を売っているすぐ隣りにはテーブルが置いてあり、マスキングテープで紙袋をデコレーションして楽しめるように用意されていて、ひまをもてあましたレインボーさんが取り組んでいたら、小学生の女の子も一緒になって始めていた。
思いのほか、本はよく売れてくれて、忙しいようなことはまったくなかったのだが、ほどよくにぎわいがあり、たまにきたお客さんが買ってくれるといういい売れかたをした。今回はもう、在庫処分のつもりでばんばん安い値段をつけたのが成功した。ようかいけむりも生産中止になってしまい、最後の2枚だったが、ちびっ子たちが珍しそうに見ているので話しかけたら、お父さんを呼んで買ってくれた。本が売れると、なによりも、帰りの荷物が軽くなるのがうれしい。南陀楼さんの本も2冊置いてあったが、ババ抜きみたいにきれいに売れ残った。
16時に古本市は終了。荷物をまとめて失礼する。トイレに行きたく、清澄白河駅に直行した。半蔵門線に乗り、渋谷から帰ろうとするが、寝過ごしてしまい、気がつくと、田園都市線に突入していた。どうしようかと思ったが、溝の口まで乗り、大井町線に乗り換え、自由が丘から東横線に乗ることにした。結果的には、渋谷駅で乗り換えるよりも楽だったかもしれない。やや涼しくなり、カバンに入れてあったパーカーを電車内で着る。お菓子をいろいろいただいたのでまるで腹が減っていなかったが、横浜に戻ってきたところで今日初めてのまともな食事をとる。東口の吉野家に入り、うわさの親子丼をようやく食べた。
夜に帰宅すると、部屋がちょっと暑い。まず、今日の売り上げの計算をして、それからすぐに眠ってしまう。深夜に目覚め、録画していた「徹子の部屋」(ゲスト・尾上菊之助&丑之助親子)を観て、Netflix でドラマをひとつ。「ブレイキング・バッド」の第1話を観たが、これは別に続きを観なくてもいいか。ドラマをもう1本観ようかと思っていたが、気力が湧かず、朝方近くにまた眠りなおした。